して居る。中つ枝の伸びない、芽吹きの若さに心がついて、思ふ処女の人を恥ぢる、まだ男せぬ女らしい艶々しい頬の色を讃美する点に達したものだ。但、此歌は、まだ続きの文句か、第二首目かゞあつたのが、脱落した儘で伝つたものと思はれる。
此に答へたおほさゞき[#「おほさゞき」に傍線]の歌も、必しも赤れる処女を貰うた礼心の表されたものとは云はれぬ。
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水たまる 依網《ヨサミ》の池に 蓴《ヌナハ》くり 延《ハ》へけく知らに 堰杭《ヰグヒ》つく川俣《カハマタ》の江の 菱殻《ヒシガラ》の刺しけく知らに、我が心し いや愚癡《ヲコ》にして(大鷦鷯命――日本紀)
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歌から見ると、危険が待ちかまへて居たのも知らないで、ひどい目に遭うた自分の愚かさを、自嘲する様な発想と気分とを持つてゐる。依網《ヨサミ》の地の池から、池にある物に結びつけて、色々なものゝ水の下にあつたものも知らずに居た。さうして、刺のある水草にさゝつたと言ふのである。此歌も何だか、ある部分の脱落を思はせる姿である。
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石上《イスノカミ》 布留を過ぎて、薦枕《コモマクラ》 高橋過ぎ、物
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