て居ると言うものだろう。柳田國男先生にお裾わけしたところが、先生も忽、うとうぶき[#「うとうぶき」に傍点]の愛好者になってお了いになった。

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夕深く 山の自動車は 山鳥の道に遊ぶを 轢き殺さむとす
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旅に出る前、私は斎藤茂吉さんに逢った。出羽の温泉の優れた処を教えて下さいと言ったところ、白布の外は肱折《ヒジオリ》だなあと話された。私は、雄勝・院内を越えて、秋田県の鷹の湯に一夜、引き還して新庄から肱折に這入って一晩を泊りに出かけても見た。やっぱり肱折はよかった。新庄からあんなに奥へ這入って行って、ああ言うがっしり[#「がっしり」に傍点]した湯の町があろうとは思わなかった。どの家も大きな真言の仏壇を据えて、大黒柱をぴかぴかさせて居ようと謂った処である。湯を呑んだ味は、今まで多く歩いた諸国の温泉の中では、一番旨いと思った。一つは、私の味覚に最叶う炭酸泉の量が多いからであろうと思う。が、其ほかにも、かわったものを含んでいるようである。私は此湯場を中心にした色々な湧き場を歩いて見た。ここは標高はわりに低いから、真夏の今頃よりは、もっと涼風立って、
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