の事もあるまいが、根源の淡島明神に近いだけに、紀州から大阪へかけて拡つてゐる形式を書く。
加太(紀州)の淡島明神は女体で、住吉の明神の奥様でおありなされた。処が、白血長血《シラチナガチ》(しらちながし[#「しらちながし」に傍線]などゝもいふ)をわづらはれたので、住吉明神は穢れを嫌うて表門の扉を一枚はづして、淡島明神と神楽太鼓とを其に乗せて、前の海に流された。其扉の船が、加太に漂着したので、其女神を淡島明神と崇め奉つたのだ。其で、住吉の社では今におき、表門の扉の片方と神楽太鼓とがないと言ふ。此は淡島と蛭子とを一つにした様に思はれる。しかし或は、月読命と須佐之男命と形式に相通ずる所がある様に、淡島・蛭子が素質は一つである事を、暗示するものかも知れない。
処で、此処に、も一つおもしろい事がある。其は、住吉につゞく堺の朝日明神の社に就ても、同様形式を伝へてゐる事である。白血長血、扉の件は同じで、海に放たれたのを朝日明神様であるといふ。神楽太鼓の件は、此方の話にはあるかないか断言しかねる。七月三十日(昔は大祓の日)には、堺の宿院の御旅所へ住吉の神輿の渡御がある。其をり、神輿が堺の町に這入ると、本
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