出ると、
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子どもの喧嘩に親出すな。親があきれて、ぼゞ出すな。
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人の顔を見つめると「人の顔見る者《モン》、飯《マヽ》粒・小つぼ」と言ふ。名前をよみ込む文句では古いのは、
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信《ノブ》こ。のったらの※[#小書き平仮名ん、130−13]|十郎《ジユウラウ》。のらのっち※[#小書き平仮名ん、130−13]ぺぇら(ぽいら[#「ぽいら」に傍線]とも)。
勝こ。かったらか※[#小書き平仮名ん、130−14]十郎。からかっち※[#小書き平仮名ん、130−14]ぺぇら。
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幾分新しいのでは、
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寅こ。とっと言へ。とりき、とゝりき、とやまのとんのくそ。
清《キヨ》こ。きっと言へ。きりき、きゝりき、きやまのきんのくそ。
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など名がしらの音を、頭韻(ありたれいしよん)に挿んで、誰にでも当てはめる。又、
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せいやん雪隠《センチ》で、ばゝ(糞)こ(泌)いて、まっちゃん松葉で掻きよせて、たぁやんた※[#小書き平仮名ん、131−2]ご(たご――角桶)で汲みに来て、みいちゃん見に来て臭かつた。
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清造とか、松太郎とか、辰三・簑吉とか、名がしらの、此歌の中にあるものが一人でもあると、謡うて悔しがらせる。何でもない事の様で、讒訴に堪へられぬ憤懣を感じたものである。男の子と女の子とが遊んでゐると、
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男とをなごとあすばんもん(物)。一間《イツケン》まなかに(の?)疵がつく。
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又「男とをなごときっきっき」。痛いと叫ぶと「いたけりや、鼬の糞つけい」と言ふ。
       一五 らつぱ[#「らつぱ」に傍線]を羨む子ども
十年程|此方《このかた》、時々、子どもの謡ふのを聞く。軍人や、洋服を着た学生を見ると「へえたいさん。ちんぽと喇叭と替へてんか」と言ふ。二十年前に子どもであつた私らの知らぬ、軍人羨望或は崇拝である。大正二年、阿蘇山を越して、豊後の竹田辺でも、此歌を旅姿の我々に、女の子の謡ひかけたのを聞いた。勿論、女の子の物をよみ入れてゐた。



底本:「折口信夫全集 3」中央公論社
   1995(平成7)年4月10日初版発行
底本の親本:「『古代研究』第一部 民俗学篇第二」大岡山書店
   1930(昭和5)年6月20日
初出:「郷土研究 第二巻第一号」
   1914(大正3)年3月
   「郷土研究 第四巻第七号」
   1916(大正5)年10月
   「土俗と伝説 第一巻第一号」
   1918(大正7)年8月
   「土俗と伝説 第一巻第三号」
   1918(大正7)年10月
※底本の題名の下に書かれている「大正三年三月・五年十月「郷土研究」第二巻第一号・第四巻第七号。大正七年八・十月「土俗と伝説」第一巻第一・三号」はファイル末の「初出」欄に移しました。
入力:門田裕志
校正:仙酔ゑびす
2007年4月8日作成
青空文庫作成ファイル:
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