かへるものであつた。
服従を誓ふことは、実は、一度でよかつたのであるが、其を確実にする為に、いつとなく毎年繰り返すやうになつて、後の朝賀の式にまで発達した。此式では、まづ天皇よりの詔詞があり、此に対して、群臣中の、二三の大きな家の氏[#(ノ)]上が、全体を代表して出て(元は、家々で出たものである)、今年も俺に服従しろ、といふ意味の御言葉に対して、叛かぬといふ事を申し上げる。此が寿詞である。
寿詞のよ[#「よ」に傍線]は、時代によつて変遷もあつたが、いのち[#「いのち」に傍線]・寿命などの意で、又魂を意味する。此を唱へると、唱へかけられた人に、唱へた方の魂が移るのである。此唱へ言の、最小限度のものが、諺である。とにかく、唱へ言をすると、其言葉の中についてゐる魂が、先方にくつ附く。家々には、大切な魂があるが、此が寿詞を唱へると、天皇の御体にうつゝて行く。それ故天皇は、国々村々の魂を沢山持つてゐて、其勢力は、非常に強くなる。かうした所から、天皇が不要の魂を、臣下に与へるといふ様な事も出て来た。かう考へて来ると、返り申しであり、魂を先方の身体にくつ附ける言葉である寿詞は、祝詞と同一のものでない
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