二
鹿島の言触《コトブ》れも春の予言に歩かなくなり、三島暦の板木も、博物館物になりさうになつて了うた世の中である。神宮司庁の大麻暦《タイマレキ》さへ忘れた様な古暦のくり言《ゴト》も、地震の年をゆり返した様な寂しい春のつれ/″\を、も一つ飜《カヘ》して、常世の国の初だよりの吉兆を言ひ立てる事になるかも知れない。
洋中の孤島に渡らずとも、おなじ「つれ/″\」は、沖縄本島にも充ち満ちてゐる。首里王朝盛時なら、生きながら髯長矯風大主《ヒヂナガユナホシノウフヌシ》とでも、今頃は神名を島人から受けて居さうな、島のわが親友は、島の朋党からけぶたがられて、東京へ出て来た。あんな恩知らずの人々の為に、其でも懲りずに、まだ書いてゐる。先年出版した「孤島苦の琉球」なども、千何百年を所在なく暮した島人の吐息を、一人で一返に吐き出した様な、勝ち方の国の我々をさへ、寂しがらせる書物である。首里宮廷の勢力の強く及んだ島尻・中頭は其でもよかつた。君主の根じろであつた島の北部|国頭《クニガミ》郡には、やはり伝来の「さう/″\しさ」が充ちてゐて、今ではそろ/\はけ口[#「はけ口」に傍点]を探し出してゐる。さ
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