る事から、前身の非凡さを考へ出す。畢竟卵や殻は、他界に転生し、前身とは異形《イギヤウ》の転身を得る為の安息所であつた。蛇は卵を出て後も、幾度か皮を蛻ぐ。茲に、這ふ虫の畏敬せられた訣がある。
南島では屡、蝶を鳥と同様に見てゐる。神又は悪魔の使女《ヴナヂ》としてゐるのは、鳥及び蝶であつた。わが国でも、てふとり[#「てふとり」に傍線]の名で、蝶を表してゐた。蛇よりも、蝶の変形は熱帯ほど激しかつた。蝶だと思うてゐると、卵の内にこもつてしまひ、また毛虫になつて出て来る。此が第二の卵なる繭に籠つて出て来ると、見替す美しさで、飛行自在の力を得て来る。だから卵や殻・繭などが神聖視せられて来るのである。
朝鮮では、鳥の卵を重く見るやうになつてゐた。卵から出た君主・英雄の話がある。古代君主の姓から、卵からと言ふより瓠から出たと解せられてゐるのもある。日本では朝鮮同様、殻其他の容れ物に入つて、他界から来ることになつてゐる。他界と他生物との違ひであるが、生物各別の天地に生きて、時々他の住居を訪ふものと見てゐた時代である。だから、畢竟おなじ事になるのだ。
秦《ハタ》[#(ノ)]河勝《カハカツ》の壺・桃太郎の桃・
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