に、うつかり発表した外来起原説を嗤ふ事が、強情な国粋家の心魂に徹する効果をあげる事を知つてゐた。さうして皮肉らしい笑ひで、私を見た。さういふ茶目吉さんだつた。其から年数がたつてゐるので、大分私の考へが這入つて来てゐるかも知れぬ。が大体かうした心切で、且痛い注意であつた。
なんでも月がまつ白に照つて、ある旧王族の御殿《オドン》だつたとか言ふ其屋敷の石垣の外に、うら声を曳く若い男の謡が、替る/″\聞える夜であつた。首里の川平朝令さんの家へ、末吉さんと二人で、およばれに行つてゐた。しぢゆん[#「しぢゆん」に傍線]は卵の孵ることだから、お尋ねの「節の若水」のしぢゆん[#「しぢゆん」に傍線]とは別かも知れぬ。私は源河節にある「おすぢどころ」を永く疑うてゐたが、其すぢ[#「すぢ」に傍線]と一つで、洗ふ事ではあるまいか。水浴することも、手足を洗ふことも一つだから、首里などでも、以前は言うた語である。かう話された時、
『末吉さん。此間も聞いたよ。中城御殿《ナカグスクオドン》――旧王家の女性《ニヨシヤウ》たちの残り住んで居られる、今の尚家の首里邸――へ此人を案内した時も、手水盥に水を汲んで「御すぢみしよ
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