にひよつくりと、波と空との間から生れて来る――誇張なしに――鳥と紛れさうな刳《ク》り舟の姿である。遠目には磯の岩かと思はれる家の屋根が、ひとかたまりづゝ、ぽっつりと置き忘られてゐる。琉球の島々には、行つても/\、こんな島ばかりが多かつた。
我々の血の本筋になつた先祖は、多分かうした島の生活を経て来たものと思はれる。だから、此国土の上の生活が始つても、まだ万葉人《マンネフビト》までは、生の空虚を叫ばなかつた。「つれ/″\」「さう/″\しさ」其が全内容になつてゐた、祖先の生活であつたのだ。こんなのが、人間の一生だと思ひつめて疑はなかつた。又さうした考へで、ちよつと見当の立たない程長い国家以前の、先祖の邑落の生活が続けられて来たのには、大きに謂はれがある。去年も今年も、又来年も、恐らくは死ぬる日まで繰り返される生活が、此だと考へ出した日には、たまるまい。
郵便船さへ月に一度来ぬ勝ちであり、島の木精がまだ一度も、巡査のさあべる[#「さあべる」に傍線]の音を口まねた様な事のない処、巫女《ノロ》や郷巫《ツカサ》などが依然、女君《ジヨクン》の権力を持つてゐる離島《ハナレ》では、どうかすればまだ、さう
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