もあら人神[#「あら人神」に傍線]なるが故に、社々の神主としての資格に当るので、其を回して、其祀る神にも言うた。併し古文の用例としては、神主を神なるものとして言うたと見る方がよい様だ。あれ[#「あれ」に傍線](幣)に対して、いち[#「いち」に傍線]・うた[#「うた」に傍線](歌)があり、いつ何[#「いつ何」に傍線]と言ふ用語例も、厳橿・厳さかき[#「厳さかき」に傍線]などになると、神出現の木と言ふ義を持つのかも知れぬ。神名のうし[#「うし」に傍線]などもうち[#「うち」に傍線]の転化ではなからうか。日本の最古い神名語尾むち[#「むち」に傍線]はうち[#「うち」に傍線]であらう(おほなむち[#「おほなむち」に傍線]・おほひるめむち[#「おほひるめむち」に傍線]・ほむちわけ[#「ほむちわけ」に傍線]など)。皇睦神《スメラガムツカム》ろぎなど言ふ睦《ムツ》も誤解で、いつ[#「いつ」に傍線]・うつ[#「うつ」に傍線]で神の義か、いつく[#「いつく」に傍線]などに近い義か。珍彦《ウヅヒコ》など言ふうづの何[#「うづの何」に傍線]もいつ[#「いつ」に傍線]と同じだらう。ひこ[#「ひこ」に傍線]はひるめ[#「ひるめ」に傍線]の生んだ日の子であり、天子の日のみ子[#「日のみ子」に傍線]と区別したのである。
神人・巫女などに日を称したのもある。にぎはやび[#「にぎはやび」に傍線]・たけひ[#「たけひ」に傍線]、後世の朝日・照日などもある。ひと[#「ひと」に傍線]のと[#「と」に傍線]も、刀禰《トネ》などのと[#「と」に傍線]で、神の配下の家の意であらうか。神《カミ》の属隷の義だらう。神《カミ》のみ[#「み」に傍線]・祇《ツミ》(つ[#「つ」に傍線]は領格の語尾)のみ[#「み」に傍線]など、皆精霊の義であらうか。女性の神称に多いなみ[#「なみ」に傍線]のみ[#「み」に傍線]も同様である。な[#「な」に傍線]はの[#「の」に傍線]で、領格の語尾であることは、つ[#「つ」に傍線]と同じい。
むち[#「むち」に傍線]は獣類の名となつて、海豹《ミチ》・貉などの精霊に、つち[#「つち」に傍線]は蛇・雷などの名となつた。餅《モチ》もひよつとすると、霊代になるものだから、むち[#「むち」に傍線]・いつ[#「いつ」に傍線]・うつ[#「うつ」に傍線]の系統かも知れぬ。酒《キ》・饌《ケ》なども神名であらう
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