かり集めてあるか、または、名詞を多く含んでいる往来物を書いている。辞書では『節用集』である。言語を覚えさせるために、言語をあらわす文字を集めている。これは平安朝まで溯ることができる。『倭名類聚鈔』『新撰字鏡』『伊呂波字類抄』、皆そうである。その前は、ことば――大事な語――を覚えさせることだった。だから日本では、歌のうえのことばを早くから覚えさせている。枕ごと、あるいは歌枕というようなものを覚えさせている。平安朝の文学をみると、随所にその俤がみえる。そういうことばを覚えることは、古くは信仰のためであって、後には、文学のために覚えることになる。言い換えると、信仰をもって伝えられているもののなかの文章を習ってことばを覚える。それによって、高い階級の人としての資格を作る。
 だから早くから歌ことばにたいする知識はあり、それがだんだん書物をもつようになった。歌ことばを集めるということが、歌論、歌学と一つになってきて、歌学の一つの内容になってきた。われわれの口の文学は、追いつめれば、ことばになってしまう。日本文学の病弊をいちばんあらわしている俳諧は、単一な語の勢力に帰してしまう。約束的な語を入れね
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