っている。
 ともかく、ことばの起源を辞書では書く必要がある。歴史的経路の発展を書こうとすると、その最初を書く必要が生じる。すると語源が要る。語源はいちばん最初のものを知らねばならぬということではないことは、先に述べた。最初を知らねばならぬと思うのは、それは空想であると考えていただきたい。国語学の一つの仕事として、辞書の完成は重大なことだが、そういう意味において、ほんとうにはできていない。

    方言

 辞書には、もう一つある。記録されない言語、偶然の原因によって記録されたにすぎぬもの、多くは記録されないもの、すなわち、方言である。方言は漠然としているが、長い歴史をもち、いまも生きている。ただ、行なわれている範囲が狭いということが、方言の最初におかるべき性質である。地方的、階級的、職業的であって、範囲が狭い。しかしながら、この方言ということは簡単に解決がつかぬ。われわれは便宜上、標準語を考えているにすぎぬ。江戸っ子のことばが標準語ではなく、それを選り分けている。平明であって、地方的なむつかしい発音を含まないで、近代的な一種の感じをもったもの、これが標準語になっている。江戸っ子のこ
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