ものを、特に愛執することを知つたのである。即、そこに思想と気分との深い融合を認め得たのである。
われ/\の考へた正しい詩形の時代は、意表外の姿をもつて現れた。それが日本に於ける象徴詩の出現と言ふことになつたのである。その後四十年以上を経てゐるけれど、矢張り日本の詩壇は、依然として象徴詩の時代である。
存外早く定型律破壊を唱道する所謂破調の詩の時代が来た。この長い年月に整理すべきものは整理しながら、やはり昔の象徴詩家が古語によせた情熱と同じものを、今の詩壇の人々の詩語や、文体の上に散見する事が出来る。象徴的な効果のある、言はゞてま[#「てま」に傍点]の代表とも言ふべきものだから、それを離れては作物が意味を失ふと考へられてゐるのである。私どもが詩を読み始めてから、さうした幾百千の語を送迎したか、数へ立てる事も出来ない。又作家自身も、それ程までの効果を考へずに、たゞの語に対する情熱から使ひ捨てたと言ふものも多かつた。もし啓蒙的な新詩語彙と言ふやうなものが出来れば、さういふ語を多く見出し、それらの語の中から、明治以後の詩人がどう言ふ語を好み、どういふ傾向に思想を寄せてゐたかと言ふ事が、手取早く
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