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こんな※[#「口+耳」、第3水準1−14−94]《ささや》きは、何時までも続きそうに、時と共に倦《う》まずに語られた。
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前少弐殿でなくて、弓削新発意《ゆげしんぼち》の方であってくれれば、いっそ安心だがなあ。あれなら、事を起しそうな房主でもなし。起したくても、起せる身分でもないじゃまで――。
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言いたい傍題《ほうだい》な事を言って居る人々も、たった此一つの話題を持ちあぐね初めた頃、噂の中の大師|恵美朝臣《えみのあそん》の姪の横佩家《よこはきけ》の郎女《いらつめ》が、神隠しに遭《お》うたと言う、人の口の端に、旋風《つじかぜ》を起すような事件が、湧き上ったのである。
九
兵部大輔《ひょうぶたいふ》大伴家持は、偶然この噂を、極めて早く耳にした。ちょうど、春分から二日目の朝、朱雀大路を南へ、馬をやって居た。二人ばかりの資人《とねり》が徒歩《かち》で、驚くほどに足早について行く。此は、晋唐の新しい文学の影響を、受け過ぎるほど享《う》け入れた文人かたぎの彼には、数年来珍しくもなくなった癖である。こうして、何処まで
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