と言うと、
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さあ、其がの――。
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と誰に言わせても、ちょっと言い渋るように、困った顔をして見せる。
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実は、ほんの人の噂だがの。噂だから、保証は出来ぬがの。義淵僧正の弟子の道鏡法師に、似てるぞなと言うがや。……けど、他人《ひと》に言わせると、――あれはもう、二十幾年にもなるかいや――筑紫で伐《う》たれなされた前太宰少弐《ぜんだざいのしょうに》―藤原広嗣―の殿に生写《しょううつ》しじゃ、とも言うがいよ。
わしには、どちらとも言えんがの。どうでも、見たことのあるお人に似て居さっしゃるには、似ていさっしゃるげなが……。
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何しろ、此二つの天部が、互に敵視するような目つきで、睨《にら》みあって居る。噂を気にした住侶《じゅうりょ》たちが、色々に置き替えて見たが、どの隅からでも、互に相手の姿を、眦《まなじり》を裂いて見つめて居る。とうとうあきらめて、自然にとり沙汰の消えるのを待つより為方《しかた》がない、と思うようになったと言う。
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若《も》しや、天下に大乱でも起らなければええが――
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