、皆の心が一時、ほうと軽くなった。
ところが、其日も昼さがりになり、段々|夕光《ゆうかげ》の、催して来る時刻が来た。昨日は、駄目になった日の入りの景色が、今日は中日にも劣るまいと思われる華やかさで輝いた。横佩家の人々の心は、再重くなって居た。
八
奈良の都には、まだ時おり、石城《しき》と謂《い》われた石垣を残して居る家の、見かけられた頃である。度々の太政官符《だいじょうがんぷ》で、其を家の周りに造ることが、禁ぜられて来た。今では、宮廷より外には、石城を完全にとり廻した豪族の家などは、よくよくの地方でない限りは、見つからなくなって居る筈なのである。
其に一つは、宮廷の御在所が、御一代御一代に替って居た千数百年の歴史の後に、飛鳥の都は、宮殿の位置こそ、数町の間をあちこちせられたが、おなじ山河一帯の内にあった。其で凡《およそ》、都遷《みやこうつ》しのなかった形になったので、後から後から地割りが出来て、相応な都城《とじょう》の姿は備えて行った。其数朝の間に、旧族の屋敷は、段々、家構えが整うて来た。
葛城に、元のままの家を持って居て、都と共に一代ぎりの、屋敷を構えて居た蘇我臣《そがのお
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