あとから後から登って来た僧たちも加って、二十人以上にもなって居た。其が、口々に喋《しゃべ》り出したものである。
ようべの嵐に、まだ残りがあったと見えて、日の明るく照って居る此|小昼《こびる》に、又風が、ざわつき出した。この岡の崎にも、見おろす谷にも、其から二上山へかけての尾根尾根にも、ちらほら白く見えて、花の木がゆすれて居る。山の此方《こなた》にも小桜の花が、咲き出したのである。
此時分になって、奈良の家では、誰となく、こんな事を考えはじめていた。此はきっと、里方の女たちのよく[#「よく」に傍点]する、春の野遊びに出られたのだ。――何時からとも知らぬ、習しである。春秋の、日と夜と平分する其頂上に当る日は、一日、日の影を逐《お》うて歩く風が行われて居た。どこまでもどこまでも、野の果て、山の末、海の渚まで、日を送って行く女衆が多かった。そうして、夜に入ってくたくたになって、家路を戻る。此|為来《しきた》りを何時となく、女たちの咄《はな》すのを聞いて、姫が、女の行として、この野遊びをする気になられたのだ、と思ったのである。こう言う、考えに落ちつくと、ありようもない考えだと訣《わか》って居ても
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