に 我《あ》が待つものを、
処女子《をとめご》は   出で通《こ》ぬものか。
よき耳を   聞かさぬものか。
青馬の    耳面刀自《みゝものとじ》。
 刀自もがも。女弟《おと》もがも。
 その子の   はらからの子の
 処女子の   一人
 一人だに、  わが配偶《つま》に来《こ》よ。

ひさかたの  天二上
二上の陽面《かげとも》に、
生ひをゝり  繁《し》み咲く
馬酔木《あしび》の   にほへる子を
 我が     捉《と》り兼ねて、
馬酔木の   あしずりしつゝ
 吾《あ》はもよ偲《しぬ》ぶ。藤原処女
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歌い了《お》えた姥は、大息をついて、ぐったりした。其から暫らく、山のそよぎ、川瀬の響きばかりが、耳についた。
姥は居ずまいを直して、厳かな声音《こわね》で、誦《かた》り出した。
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とぶとりの 飛鳥の都に、日のみ子様のおそば近く侍《はべ》る尊いおん方。ささなみの大津の宮に人となり、唐土《もろこし》の学芸《ざえ》に詣《いた》り深く、詩《からうた》も、此国ではじめて作られたは、大友ノ皇子か、其とも此お方か、と申し伝えられる御方。
近江の
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