《くになか》に、宮|遷《うつ》し、宮|奠《さだ》め遊した代々《よよ》の日のみ子さま。長く久しい御代御代に仕えた、中臣の家の神業。郎女さま。お聞き及びかえ。遠い代の昔語り。耳明らめてお聴きなされ。中臣・藤原の遠つ祖あめの押雲根命《おしくもね》。遠い昔の日のみ子さまのお喰《め》しの、飯《いい》と、み酒《き》を作る御料の水を、大和国中残る隈《くま》なく捜し覓《もと》めました。
その頃、国原の水は、水渋《そぶ》臭く、土濁りして、日のみ子さまのお喰しの料《しろ》に叶いません。天の神|高天《たかま》の大御祖《おおみおや》教え給えと祈ろうにも、国中は国低し。山々もまんだ[#「まんだ」に傍点]天遠し。大和の国とり囲む青垣山では、この二上山。空行く雲の通い路と、昇り立って祈りました。その時、高天の大御祖のお示しで、中臣の祖押雲根命、天の水の湧き口を、此二上山に八《や》ところまで見とどけて、其後久しく、日のみ子さまのおめしの湯水は、代々の中臣自身、此山へ汲みに参ります。お聞き及びかえ。
[#ここで字下げ終わり]
当麻真人の、氏の物語りである。そうして其が、中臣の神わざと繋《つなが》りのある点を、座談のよう
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