、ちろめく光りである。
姫は寝ることを忘れたように、坐って居た。
万法蔵院の上座の僧綱《そうごう》たちの考えでは、まず奈良へ使いを出さねばならぬ。横佩家《よこはきけ》の人々の心を、思うたのである。次には、女人結界《にょにんけっかい》を犯して、境内深く這入《はい》った罪は、郎女《いらつめ》自身に贖《あがな》わさねばならなかった。落慶のあったばかりの浄域だけに、一時は、塔頭《たっちゅう》塔頭の人たちの、青くなったのも、道理である。此は、財物を施入する、と謂《い》ったぐらいではすまされぬ。長期の物忌みを、寺近くに居て果させねばならぬと思った。其で、今日昼の程、奈良へ向って、早使いを出して、郎女の姿が、寺中に現れたゆくたて[#「ゆくたて」に傍点]を、仔細《しさい》に告げてやったのである。
其と共に姫の身は、此|庵室《あんしつ》に暫らく留め置かれることになった。たとい、都からの迎えが来ても、結界を越えた贖いを果す日数だけは、ここに居させよう、と言うのである。
牀《ゆか》は低いけれども、かいてあるにはあった。其替り、天井は無上《むしょう》に高くて、而も萱《かや》のそそけた屋根は、破風《はふ》の脇か
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