描《すみが》きなしに、うちつけに絵具を塗り進めた。美しい彩画《たみえ》は、七色八色の虹のように、郎女の目の前に、輝き増して行く。
姫は、緑青を盛って、層々うち重る楼閣|伽藍《がらん》の屋根を表した。数多い柱や、廊の立ち続く姿が、目赫《めかがや》くばかり、朱で彩《た》みあげられた。むらむらと靉《たなび》くものは、紺青の雲である。紫雲は一筋長くたなびいて、中央根本堂とも見える屋の上から、画きおろされた、雲の上には金泥《こんでい》の光り輝く靄《もや》が、漂いはじめた。姫の命を搾るまでの念力が、筆のままに動いて居る。やがて金色《こんじき》の雲気は、次第に凝り成して、照り充ちた色身《しきしん》――現《うつ》し世《よ》の人とも見えぬ尊い姿が顕《あらわ》れた。
郎女は唯、先の日見た、万法蔵院の夕《ゆうべ》の幻を、筆に追うて居るばかりである。堂・塔・伽藍すべては、当麻のみ寺のありの姿であった。だが、彩画の上に湧き上った宮殿《くうでん》楼閣は、兜率天宮《とそつてんぐう》のたたずまいさながらであった。しかも、其四十九重の宝宮の内院に現れた尊者の相好《そうごう》は、あの夕、近々と目に見た俤《おもかげ》びとの
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