うに出るばかりになった。
秋深くなるにつれて、衰えの、目立って来た姥《うば》は、知る限りの物語りを、喋《しゃべ》りつづけて死のう、と言う腹をきめた。そうして、郎女の耳に近い処をところ[#「ところ」に傍点]をと覓《もと》めて、さまよい歩くようになった。
郎女は、奈良の家に送られたことのある、大唐の彩色《えのぐ》の数々を思い出した。其を思いついたのは、夜であった。今から、横佩墻内《よこはきかきつ》へ馳《か》けつけて、彩色を持って還《かえ》れ、と命ぜられたのは、女の中に、唯一人残って居た長老《おとな》である。ついしか、こんな言いつけをしたことのない郎女の、性急な命令に驚いて、女たちは復《また》、何か事の起るのではないか、とおどおどして居た。だが、身狭乳母《むさのちおも》の計いで、長老は渋々、夜道を、奈良へ向って急いだ。
あくる日、絵具の届けられた時、姫の声ははなやいで、興奮《はや》りかに響いた。
女たちの噂した所の、袈裟《けさ》で謂《い》えば、五十条の大衣《だいえ》とも言うべき、藕糸《ぐうし》の上帛《はた》の上に、郎女の目はじっとすわって居た。やがて筆は、愉《たの》しげにとり上げられた。線
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