に、北に向いて開いて居るが、主人家族の住いは、南を広く空けて、深々とした山斎《やま》が作ってある。其に入りこみの多い池を周《めぐ》らし、池の中の島も、飛鳥の宮風に造られて居た。東の中《なか》み門《かど》、西の中み門まで備って居る。どうかすると、庭と申そうより、寛々《かんかん》とした空き地の広くおありになる宮よりは、もっと手入れが届いて居そうな気がする。
庭を立派にして住んだ、うま[#「うま」に傍点]人たちの末々の様が、兵部大輔の胸に来た。瞬間、憂欝《ゆううつ》な気持ちがかぶさって来て、前にいる大師の顔を見るのが、気の毒な様に思われる。
[#ここから1字下げ]
案じるなよ。庭が行き届き過ぎて居る、と思うてるのだろう。そんなことはないさ。庭はよくても、亡びた人ばかりはないさ。淡海公の御館はどうだ。どの筋でも引き継がずに、今に荒してはあるが、あの立派さは。それ[#「それ」に傍点]あの山部の何とか言った、地下《じげ》の召し人の歌よみが、おれの三十になったばかりの頃、「昔見し旧《ふる》き堤は、年深み……年深み、池の渚《なぎさ》に、水草《みくさ》生ひにけり」とよんだ位だが、其後が、これ[#「これ」
前へ
次へ
全159ページ中121ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
折口 信夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング