した様に、鎮まって居た。夕闇はそろそろ、かぶさって来て居るのに、山裾のひらけた処を占めた寺庭は、白砂が、昼の明りに輝いていた。ここからよく見える二上の頂は、広く、赤々と夕映えている。
姫は、山田の道場の※[#「片+總のつくり」、第3水準1−87−68]《まど》から仰ぐ空の狭さを悲しんでいる間に、何時かここまで来て居たのである。浄域を穢《けが》した物忌みにこもっている身、と言うことを忘れさせぬものが、其でも心の隅にあったのであろう。門の閾《しきみ》から、伸び上るようにして、山の際《は》の空を見入って居た。
暫らくおだやんで居た嵐が、又山に廻ったらしい。だが、寺は物音もない黄昏《たそがれ》だ。
男岳《おのかみ》と女岳《めのかみ》との間になだれをなした大きな曲線《たわ》が、又次第に両方へ聳《そそ》って行っている、此二つの峰の間の広い空際。薄れかかった茜の雲が、急に輝き出して、白銀の炎をあげて来る。山の間《ま》に充満して居た夕闇は、光りに照されて、紫だって動きはじめた。
そうして暫らくは、外に動くもののない明るさ。山の空は、唯白々として、照り出されて居た。肌 肩 脇 胸 豊かな姿が、山の尾上の松原の上に現れた。併し、俤《おもかげ》に見つづけた其顔ばかりは、ほの暗かった。
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今すこし著《しる》く み姿|顕《あらわ》したまえ――。
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郎女の口よりも、皮膚をつんざいて、あげた叫びである。山腹の紫は、雲となって靉《たなび》き、次第次第に降《さが》る様に見えた。
明るいのは、山際ばかりではなかった。地上は、砂《いさご》の数もよまれるほどである。
しずかに しずかに雲はおりて来る。万法蔵院の香殿・講堂・塔婆・楼閣・山門・僧房・庫裡《くり》、悉《ことごと》く金に、朱に、青に、昼より著《いちじる》く見え、自ら光りを発して居た。
庭の砂の上にすれすれに、雲は揺曳《ようえい》して、そこにありありと半身を顕した尊者の姿が、手にとる様に見えた。匂いやかな笑みを含んだ顔が、はじめて、まともに郎女に向けられた。伏し目に半ば閉じられた目は、此時、姫を認めたように、清《すず》しく見ひらいた。軽くつぐんだ脣《くちびる》は、この女性《にょしょう》に向うて、物を告げてでも居るように、ほぐれて見えた。
郎女は尊さに、目の低《た》れて来る思いがした。だが、此時を過しては
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