言われずとも、すべての心が、一度に了解して居た。言い難い恐怖にかみずった女たちは、誰一人声を出す者も居なかった。
身狭乳母は、今の今まで、姫の側に寄って、後から姫を抱えて居たのである。皆の人はけはいで、覚め難い夢から覚めたように、目をみひらくと、ああ、何時の間にか、姫は嫗《おむな》の両腕《もろうで》両膝の間には、居させられぬ。一時に、慟哭《どうこく》するような感激が来た。だが長い訓練が、老女の心をとり戻した。凛《りん》として、反り返る様な力が、湧き上った。
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誰《た》ぞ、弓を――。鳴弦《つるうち》じゃ。
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人を待つ間もなかった。彼女自身、壁代《かべしろ》に寄せかけて置いた白木の檀弓《まゆみ》をとり上げて居た。
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それ皆の衆――。反閇《あしぶみ》ぞ。もっと声高《こわだか》に――。あっし、あっし、それ、あっしあっし……。
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若人たちも、一人一人の心は、疾《と》くに飛んで行ってしまって居た。唯一つの声で、警※[#「馬+畢」、198−下段−5]《けいひつ》を発し、反閇《へんばい》した。
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あっし あっし。
あっし あっし あっし。
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狭い廬《いおり》の中を蹈《ふ》んで廻った。脇目からは、遶道《にょうどう》する群れのように。
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郎女様は、こちらに御座りますか。
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万法蔵院の婢女が、息をきらして走って来て、何時もなら、許されて居ぬ無作法で、近々と、廬の砌《みぎり》に立って叫んだ。
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なに――。
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皆の口が、一つであった。
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郎女様か、と思われるあて人が――、み寺の門《かど》に立って居さっせるのを見たで、知らせにまいりました。
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今度は、乳母一人の声が答えた。
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なに、み寺の門に。
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婢女を先に、行道の群れは、小石を飛す嵐の中を、早足に練り出した。
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あっし あっし あっし ……。
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声は、遠くからも聞えた。大風をつき抜く様な鋭声《とごえ》が、野面《のづら》に伝わる。
万法蔵院は、実に寂《せき》として居た。山風は物忘れ
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