の神語り。藤原の家の古物語り。多くの語り詞《ゴト》を、絶えては考へ繼ぐ如く、語り進んでは途切れ勝ちに、呪々《ノロヽヽ》しく、くね/\しく、獨り語りする語部や、乳母《オモ》や、嚼母《マヽ》たちの唱へる詞が、今更めいて、寂しく胸に蘇つて來る。
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をゝ、あれだけの習しを覺える、たゞ其だけで、此世に生きながらへて行かねばならぬみづから[#「みづから」に傍点]であつた。
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父に感謝し、次には、尊い大叔母《オホヲバ》君、其から見ぬ世の曾祖母《オホオバ》の尊に、何とお禮申してよいか、量り知れぬものが、心にたぐり上げて來る。だが[#「だが」に傍点]まづ、父よりも誰よりも、御禮申すべきは、み佛である。この珍貴《ウヅ》の感覺《サトリ》を授け給ふ、限り知られぬ愛《メグ》みに充ちたよき人[#「よき人」に傍点]が、此世界の外に、居られたのである。郎女は、塗香《ヅカウ》をとり寄せて、まづ髮に塗り、手に塗り、衣を薫るばかりに匂はした。
十一
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ほゝき ほゝきい ほゝほきい――。
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きのふよりも、澄んだよい
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