水準1−14−94]きは、何時までも續きさうに、時と共に倦まずに語られた。
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前《ゼン》少貳殿でなくて、弓削新發意《ユゲシンボチ》の方であつてくれゝば、いつそ安心だがなあ。あれなら、事を起しさうな房主でもなし。起したくても、起せる身分でもないぢやまで――。
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言ひたい傍題《ハウダイ》な事を言つて居る人々も、たつた此一つの話題を持ちあぐね初めた頃、噂の中の大師|惠美《ヱミノ》朝臣の姪の横佩家の郎女《イラツメ》が、神隱しに遭うたと言ふ、人の口の端に、旋風《ツジカゼ》を起すやうな事件が、湧き上つたのである。
九
兵部大輔《ヒヤウブタイフ》大伴[#(ノ)]家持は、偶然この噂を、極めて早く耳にした。ちようど、春分《シユンブン》から二日目の朝、朱雀大路を南へ、馬をやつて居た。二人ばかりの資人《トネリ》が徒歩《カチ》で、驚くほどに足早について行く。此は、晋唐の新しい文學の影響を、受け過ぎるほど享け入れた文人かたぎの彼には、數年來珍しくもなくなつた癖である。かうして、何處まで行くのだらう。唯、朱雀の竝み木の柳の花がほゝけて、霞のやうに飛
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