に心づいた、姫の祖父|淡海《タンカイ》公などは、古き神祕を誇つて來た家職を、末代まで傳へる爲に、別に家を立てゝ中臣の名を保たうとした。さうして、自分・子供ら・孫たちと言ふ風に、いちはやく、新しい官人《ツカサビト》の生活に入り立つて行つた。
ことし、四十を二つ三つ越えたばかりの大伴家持《オホトモノヤカモチ》は、父|旅人《タビト》の其年頃よりは、もつと優れた男ぶりであつた。併し、世の中はもう、すつかり變つて居た。見るもの障《サハ》るもの、彼の心を苛《イラ》つかせる種にならぬものはなかつた。淡海公の、小百年前に實行して居る事に、今はじめて自分の心づいた鈍《オゾ》ましさが、憤らずに居られなかつた。さうして、自分とおなじ風の性向の人の成り行きを、まざ/″\省みて、慄然とした。現に、時に誇る藤原びとでも、まだ昔風の夢に泥《ナヅ》んで居た南家の横佩右大臣は、さきをとゝし、太宰[#(ノ)]員外帥《ヰングワイノソツ》に貶《オト》されて、都を離れた。さうして今は、難波で謹愼してゐるではないか。自分の親旅人も、三十年前に踏んだ道である。
世間の氏上家《ウヂノカミケ》の主人《アルジ》は、大方もう、石城《シキ》
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