不思議――現世の増上慢どもに對してのよい見せしめで御座ります。此ほどまざ/″\と、教法の尊さを示すことは御座いません。
さう言ふ姿を見たと言ふことが、そこ[#「そこ」に傍点]の大きな學問になつたのだ。その時、開山の髮髭はどう言ふ樣子だつた。
恐れおほいことで御座います。まことに、二寸ばかり伸びてゐさせられました。髭までは拜しあげる心にはなれませんでした。
心弱いことの。だが/″\結構々々。さうした經驗は、日本廣しといへども、した人は二人三人《フタリサンニン》ほか居まい。羨しいことだ。時にそれが、どう日京卜と繋つてゐるのだ。
[#ここで字下げ終わり]
律師は、知識の鬼のやうに、探究の目を輝して、眞向ひの貴人に、壓倒せられる樣な氣になつてゐた。
[#ここから1字下げ]
唯、いつからの爲來りともなく、大師鬢髮の伸びぐあひをはかる占ひめいた儀を行ひます。其は何ともはや、――謂はゞ、目にこそ見ざれ、今あること。其がたゞ肉眼では見えぬだけのこと。御廟の底の大師のお形を、幾重の岩を隔てゝ、透し見るだけのことで御座います。目ざす所は、めど[#「めど」に傍点]を抽《ヌ》き、龜や鹿の甲を灼《ヤ》いて、未來
前へ 次へ
全26ページ中9ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
折口 信夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング