わり]
ひとり言しながら、ぢつと見てゐるうちに、花は広い萼《うてな》の上に乗つた仏の前の大きな花になつて来る。其がまた、ふつと目の前のさゝやかな花に戻る。
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夕風が冷《ひや》ついて参ります。内へ――。
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乳母が言つた。見渡す山は、皆影濃くあざやかに見えて来た。
一番近く谷を隔て、端山の林や崖《なぎ》の幾重も重つた上に、二上の男嶽《をのかみ》の頂が、赤い日に染つて立つてゐる。
今日は、あまりに静かな夕《ゆふべ》である。山ものどかに夕雲の中に這入つて行かうとしてゐる。
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まうし。まう外に居る時では御座りません。
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八
「朝目よく」うるはしい兆《しる》しを見た昨日は、郎女にとつて、知らぬ経験を、後から後から展いて行つた。たゞ人《びと》の考へから言へば、苦しい現実のひき続きではあつたのだが、姫にとつては、心驚く事ばかりであつた。
一つ/\変つた事に逢ふ度に、姫は「何も知らぬ身であつた」と心の底で声を上げた。さうして、その事毎に挨拶をしてはやり過したい気が一ぱいであつた。今日も其続きを
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