ず》が届けられた。其には、太宰府にある帥の殿の立願によつて、仏前に読誦した経文の名目が書き列ねてあつた。其に添へて一巻の縁起文が、此御館へ届けられたのである。
父藤原豊成朝臣、亡父贈太政大臣七年の忌みに当る日に志を発《おこ》して、書き綴つた「仏本伝来記」を、二年目の天平十八年に、元興寺《ぐわんこうじ》へ納めた。飛鳥以来、藤原氏とも関係の深かつた寺なり、本尊なのである。あらゆる念願と、報謝の心を籠めたものと言ふことは察せられる。其一巻が、どう言ふ事情か横佩家へ戻つて来たのである。
郎女の手に、此巻が渡つた時、姫は端近く膝行《ゐざ》り出て、元興寺の方を礼拝した。其後で、
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筑紫は、どちらに当るかえ
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と尋ねて、示す方角へ、活き/\した顔を向けた。其目からは、珠数の水精《すゐしやう》のやうな涙が落ちた。其からと言ふものは、来る日も/\此元興寺の縁起文を手写した。内典・外典其上に又、大日本《おほやまと》の人なる父の書いた文《もん》。
指から腕、腕から胸、胸から又心へ、泌み/\と深く、魂を育てる智慧の這入つて行くのを覚えたのである。
大日本|日高見《
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