明日香《あすか》
ふる里の 神南備山《かむなび》隠《ごも》り
家どころ 多《さは》に見え、
豊《ゆた》にし 屋庭《やには》は見ゆ。
弥《いや》彼方《をち》に 見ゆる家群《いへむら》
藤原の 朝臣《あそ》が宿。
遠々に わが見るものを、
たか/″\に 我が待つものを、
処女子《をめご》は 出で行《こ》ぬものか。
よき言《こと》を 聞かさぬものか。
青馬の 耳面刀自《みゝものとじ》。
刀自もかも、女弟《おと》もがも、
その子の はらからの子の
処女子の 一人
一人だに わが郷偶《つま》に来《こ》よ。
久方の 天二上
二上の陽面《かげとも》に、
生ひをゝり 繁《し》み咲く
馬酔木《あしび》の にほへる子を
我が 取り兼ねて、
馬酔木の あしずりしづる
吾《わ》はもよ 偲《しの》ぶ。藤原処女
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歌ひ了へた姥は、大息をついて、ぐつたりした。其から暫らく、山のそよぎ、川瀬の響きばかりが耳についた。
姥は居ずまひを改めて、厳かな声音で、言ひ出した。
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