でも/\野の限り、山も越え、海の渚まで日を送つて行つた女すら、段々あつた。さうして夜はくた/\になつて家路を戻る。此為来りを何時となく女たちの咄すのを聞いて、姫が女の行《ぎやう》として、此の野遊びをする気になられたのだ、と思つたのである。かう言ふ考へに落ちつくと、皆の心が一時ほうと軽くなつた。
ところが、其日も昼さがりになり、段々夕かげが催して来る時刻が来た。昨日は駄目になつた日の入りの景色が、今日は其にも劣るまいと思はれる華やかさで輝いた。横佩家の人々の心は、再重くなつて来た。
三
万蔵法院の北の山陰に、昔から小さな庵室があつた。昔からと言ふのは、貴人がすべて、さう信じて居たのである。荒廃すれば繕ひ/\して、人は住まぬ宿に、孔雀明王像が据ゑてあつた。当麻《たぎま》の村人の中には、稀に此が山田寺であると言ふものもあつた。さう言ふ人の伝へでは、万蔵法院は、山田寺の荒れて後、飛鳥の宮の仰せを受けてとも言ひ、又御自身の発起からだとも言ふが、一人の尊いみ子が、昔の地を占めにお出でになつて、大伽藍を建てさせられた。其際、山田寺の旧蹟を残す為に寺の四至の中の北の隅に、当時立ち朽
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