したら、よいのだらう。
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姫は、はじめて顔へ偏《かたよ》つてかゝつて来る髪のうるさゝを感じた。梭を揺つて見た。筬の櫛目を覗いて見た。
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あゝ、何時になつたら、衣《ころも》をお貸し申すことが出来よう。
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もう、外の叢で鳴き出した蟋蟀の声を、瞬間思ひ出して居た。
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どれ、およこし遊ばせ。かう直せば動かぬことも御座るまいて――。
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どうやら聞いた気がする、その声が機の外にした。
あて人の姫は、何処から来た人とも疑はなかつた。唯、さうした好意ある人を予想して居た時なので、
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では、見てたもれ。
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言ひ放つて、機をおりた。
女は尼であつた。髪を切つて尼そぎにした女は、其も二三度は見かけたこともあつたが、剃髪した尼を見たことのない姫であつた。
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はた、はた ちやう ちやう
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元の通りの音が整つて出て来た。
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草の絲は、かう言ふ風には織るものでは御座りませぬ。もつと寄つて御
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