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刀自は、驚いて姫の詞を堰き止めた。
女たちは、板屋に戻つても長く、健やかな喜びを、皆して語つて居た。
全く些《すこ》しの悪意もまじへないで、言ひたいまゝの気持ちから、
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田居へおりたちたい――。
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を反覆した。
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めつさうな。
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きまつて、誇張した表現で答へることも、此と同時に、この小社会で行はれ出した。何から何まで縛りつけるやうな身狭乳母《むさのおも》に対する反感が、此で幾分帳消しになる気がするのであらう。
其日からもう、若人たちの絲縒りは初まつた。夜はまつ暗の中で寝る女たちには、稀に男の声を聞くことのある奈良の垣内住ひが恋しかつた。朝は又、何もかも忘れたやうになつて績《う》み貯める。さうした絲の六かせ七かせを持つて出て、郎女に見せたのは、其数日後であつた。
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乳母《おも》よ。この絲は蝶鳥の翼よりも美しいが、蜘妹《くも》の巣《い》より弱く見えるがや――。
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郎女は、久しぶりでにつこりした。労を犒らふと共に考への足らぬのを憐むやうであ
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