も辛抱しては居りはせぬがい――。何せ、むざ/″\尼寺へやる訣にいかぬ。
でもねえ。一人出家すれば、と云ふ詞が、この頃頻りに説かれるで……。
九族が天に生じて、何になるといふのぢや。実は何百人かゝつても作り出せるものではない。どだい[#「どだい」に傍点]兄公殿《あにきどの》が、少し仏|凝《ご》りが過ぎるでなう――。自然|内《うち》うらまで、そんな気風がしみこむやうになつたかも知れぬぞ。時に、お身のみ館の郎女も、そんな育てはしてあるまいな。其では久須麻呂が泣きを見るからねえ。
[#ここで字下げ終わり]
人の悪いからかひ笑みを浮べて、話を無理にでも脇に釣り出さうとするのは、考へるのも切ないことが察せられる。
[#ここから1字下げ]
兄公は氏上に、身は氏助《うぢのすけ》と言ふ訣でゐるが、肝腎斎き姫で枚岡に居させられる叔母御は、もうよい年ぢや。去年春日祭りに上られた姿を見て、神《かん》さびたものよと思うたよ。今《も》一代此方から進ぜないなら、斎き姫になる娘の多い北家の方が、すぐに取つて替つて氏上に据るは。
[#ここで字下げ終わり]
兵部大輔にとつても、此だけは他事《ひとごと》ではなかつた。おなじ
前へ 次へ
全148ページ中110ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
折口 信夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング