間との性欲的交渉を一人称や三人称で記したものが数多くある。其が人間界の仙宮と言うてよい宮廷方面にまで拡つて来て、帝王と神女の間を靡爛した筆で叙《の》べるばかりか、帝王と後宮の人々との上にまで及ぼして、愛欲の無何有郷を細やかに、誘惑的に描写して居る。
[#ここで字下げ終わり]
元々空想の所産でなく、民間説話の記録なのであるから、小説と言ふ名も出来たのだ。「小」は庶民・市井などの意に冠する語で、官を「大」とする対照である。説は説話・伝説の意である。
小説・稗史は、だから一つ物で、民間に伝はる誤謬のある事の予期出来る歴史的伝承と言ふ事になる。史官の編纂した物を重んじ過ぎるからさうなつたのだが、段々史実の叙述以外に空想のまじる事を無意識ながら、筆者自身も意識する事になつた。其処で伝奇と言ふ名が、ようろつぱ[#「ようろつぱ」に傍線]の羅馬治下の国の所謂ろうまんす[#「ろうまんす」に傍線]を持つて、地方々々の伝説を記したろうまんす[#「ろうまんす」に傍線]なる小説と、成立から内容までが、似よりを持つて来る様になつた次第である。
既に遊仙窟だけは確かに奈良朝に渡つて来て居て、其を模倣した文章さへ万葉
前へ 次へ
全68ページ中66ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
折口 信夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング