なかつた事を見せて居るのではなからうか。
[#ここで字下げ終わり]
唯一点、人形については、近世の神道学者の注意が向いて居ないばかりか、古代日本の純粋な生産と考へない癖がついて居る様だから、話頭を触れておかねばならぬ気がする。
二 くゞつ[#「くゞつ」に傍線]以前の偶人劇
浮浪民なるくゞつ[#「くゞつ」に傍線]の民の女が、人形を舞はした事は、平安朝中期に文献がある。其盛んに見えたのは、真に突如として、室町の頃からである。此時代を史家は、戦争と武人跋扈との暗黒時代ときはめをつけて居るが、書き物だけでは、実際、江戸の平民の文明を暗示する豊かな力の充ち満ちた時代である。上層・中層の文明のをどみ[#「をどみ」に傍線]に倦んで、地下《ヂゲ》の一番下積みになつて居た物の、顧みかけられた世間であつた。此以前にも、偶人劇が所々方々に下級神人や、くゞつ[#「くゞつ」に傍線]の手で行はれて居た事が察せられる。新式であつた為、都人士に歓ばれた偶人劇の団体が、摂津広田の西の宮を中心とするものであつたらう。が、恐らく、此を人形芝居の元祖と見る事は出来ぬ。此側の伝へでは、淡路人形を重く見て居る。併し
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