居るのであらう。家々を訪れた神の俤《おもかげ》が見えるではないか。
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新室の壁草刈りに、いまし給はね。草の如 よりあふ処女は、君がまに/\(万葉巻十一旋頭歌)
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は、たゞの酒宴の座興ではない。室《ムロ》ほぎ[#「ほぎ」に傍線]の正客に、舞媛《マヒヒメ》の身を任せた旧慣の、稍《やや》崩れ出した頃に出来たものなる事が思はれる。
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允恭天皇が、皇后の室《ムロ》ほぎ[#「ほぎ」に傍線]に臨まれた際、舞人であつた其妹衣通媛を、進め渋つて居た姉君に強要せられた伝へ(日本紀)がある。嫉み深い皇后すら、其を拒めなかつたと言ふ風な伝へは、根強い民間伝承を根としてゐるのである。
来目部《クメベ》[#(ノ)]小楯が、縮見《シヾミ》[#(ノ)]細目《ホソメ》の新室に招かれた時、舞人として舞ふ事を、億計《オケ》王の尻ごみしたのも、此側から見るべきであらう。神とも尊ばれた室ほぎ[#「室ほぎ」に傍線]の正客が弘計《ヲケ》王の歌詞を聞いて、急に座をすべると言ふ点も、此をかしみを加へて考へねばなるまい。
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まれびと[#「まれびと
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