のであらう。此事が、日本に於ける初夜権の実在と、其理由とを示して居る。出雲・宗像への三代格の文は、宮廷にばかり古風は存して居ても、民間には、神と現神とをひき離さうとする合理政策でもあり、文化施設でもあつたのだ。
地物の精霊の上に、大空或は海のあなたより来る神が考へられて来ると、高下の区別が、神々の上にもつけられる。遠くより来り臨む神は、多くの場合、村々の信仰の中心になつて来る。「杖代《ツヱシロ》」とも言ふ嫁の進められる神は、此側に多かつた様である。時を定めて来る神は、稀々にしか見えぬにしても、さうした巫女が定められて居た。常例の神祭りに、神に扮して来る者の為にも、神の嫁としての為事は、変りがなかつた。此は、村の祭り・家の祭りに通じて行はれた事と思はれる。
二 まれびと
新築の室《ムロ》ほぎ[#「ほぎ」に傍線]に招いた正客は、異常に尊びかしづかれたものである。
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新室《ニヒムロ》を踏静子《フミシヅムコ》が手玉鳴らすも。玉の如 照りたる君を 内にとまをせ(万葉巻十一旋頭歌)
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と言ふのは、舞人の舞ふ間を表に立つ正客のある事を示して
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