前のほかひゞと[#「ほかひゞと」に傍線]の続きだとは、速断しかねるが、大体時代は、略《ほぼ》接して居るものと言へる様である。日なみ月なみ数へ[#「日なみ月なみ数へ」に傍線]・勧農・祝言、様々の神人がゝつた為事が、順ぐりに形を変へて、次の姿になつたと見るよりは、一つの種が、時代と地方とで、色々な形と、色々な色彩とを持つて、後から/\出たものと見る事も出来よう。でも、其は却つて論理を複雑にするものであるから、直系・傍系と言ふ点の考へに重きを置くことをやめて、事実を見る外はあるまい。

     二 「乞食者詠」の一つの註釈

万葉巻十六は、叙事詩のくづれと見えるものを多く蒐《あつ》めて居る。其中、殊に異風なのは、「乞食者詠」とある二首の長歌である。此を、必しもほかひゞとのうた[#「ほかひゞとのうた」に傍線]と訓まなくとも、当時の乞食者の概念と、其生活とは窺はれる。土地についた生業を営まず、旅に口もらふと言ふ点から、人に養はれる者と言ふ侮蔑を含んで居る。決して、近世の無産の浮浪人をさすのではない。而も、巡遊伶人であることは、確かである。
平安の中頃には、ほかひ[#「ほかひ」に傍線]が乞食と離
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