、亀津比女[#(ノ)]命は固より亀卜の神であらう。太詔戸[#(ノ)]命は一般の天つ祝詞の神であり、亀津比女[#(ノ)]命は其一部の「とほかみゑみため」の呪言の神なのではなからうか。此神は祝詞屋の神で、一柱とも二柱とも考へる事が出来たのであらう。若し此考へがなり立つとすれば、太詔戸[#(ノ)]命は、寿詞・祝詞に対して、どう言ふ位置を持つ事になるであらう。
呪言の最初の口授者は、祝詞の内容から考へると、かぶろき[#「かぶろき」に傍線]、かぶろみ[#「かぶろみ」に傍線]の命らしく見える。併し、此は唯の伝説で、こんなに帰一せない以前には、口授をはじめた神が沢山あつたに違ひない。ところが伝来の古さを尊ぶ所から、勢力ある神の方へ傾いて行つたのであらう。天津詔戸太詔戸[#(ノ)]命は、古い呪言一切に関して、ある職能を持つた神と考へられたものとしても、何時からの事かは知れない。
神語を伝誦する精神から、呪言自身の神が考へられ、呪言の威力を擁護し、忘却を防ぐ神の存在も必要になつて来る。此意味に於て、太詔戸[#(ノ)]命と言ふ不思議な名の神も祀られ出したのではなからうか。其外に、今二つの考へ方がある。呪言
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