れて居る。
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最愛季子《マナオトゴ》に火産霊《ホムスビノ》神生み給ひて、みほと焼かえて岩隠りまして[#「みほと焼かえて岩隠りまして」に傍点]、夜は七夜、日は七日、我をな見給ひそ。我が夫の命と申し給ひき。此七日には足らずて、隠ります事あやしと見そなはす時、火を生み給ひてみほと焼かえましき[#「火を生み給ひてみほと焼かえましき」に傍点]。
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など言ふ文は、古風であるが、表現が如何にも不熟である。此程古拙なものは、他には見当らない。呼応法の古い形式を、充分に残してゐる。
他の天つのりと[#「天つのりと」に傍線]云々を称する祝詞は、皆別に天つ祝詞があつて、其部分を示さなかつたのかと思はれる程、其らしい匂ひを留めぬものである。大祓祝詞に見えた天つ祝詞などは、恐らく文中には省いてあるのであらうが、中には、精霊を嚇す為に、其伝来を誇示したものもある様だし、或はもつと不純な動機から、我が家の祝詞の伝襲に、時代をつけようとしたのかと思はれるものさへある。
天つ祝詞の類の呪言が一等古いもので、此は多く、伝承を失うて了うた。所謂三種祝詞と称するとほかみゑみため[
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