ほかひ[#「酒ほかひ」に傍線]と言ふのは、唯の酒もりではない。酒を醸す最初の言ほぎ[#「言ほぎ」に傍線]の儀式を言ふのだ。どうかすれば、酒をつくる為の祝ひ、上出来の祈願の様に見えるが、其は当らない。「……ますら雄のほぐ[#「ほぐ」に傍線]豊御酒に、我ゑひにけり」(応神紀)は、ほぎし[#「ほぎし」に傍点]の時間省略の形である。此は、待ち酒の恒例化したもので、酒づくりの始めを利用して、長寿の言ほぎ[#「言ほぎ」に傍線]して占うたものなのである。此部分が段々閑却せられて来ると、よく醗酵する様に祈ると言ふ方面が、ことほぎ[#「ことほぎ」に傍線]の一つの姿となつて来る。酒ほかひ[#「酒ほかひ」に傍線]なる語が、酒宴の義に近づく理由である。かうした変化は、どの方面のほかひ[#「ほかひ」に傍線]にもあつた事なのである。唯、酒は元もと神事から出たものだから、出発点に於ける占ひの用途を考へない訣《わけ》にはいかない。
室ほぎ[#「室ほぎ」に傍線]の側になると、此因果関係は交錯して居る。弘計《ヲケ》王の室ほぎ[#「室ほぎ」に傍線]の寿詞は、恐らく世間一般に行はれて居た文句なのであらう。建て物の部分々々に詞
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