国文学の発生(第二稿)
折口信夫

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)併《しか》し

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)酒一|巡《ズン》して

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「女+櫂のつくり」、第3水準1−15−93]歌会《カヾヒ》

 [#(…)]:訓点送り仮名
 (例)来目部《クメベ》[#(ノ)]小楯

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)まに/\
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
−−

   呪言の展開

     一 神の嫁

国家意識の現れた頃は既に、日本の巫女道では大体に於て、神主は高級巫女の近親であつた。併《しか》し、其は我々の想像の領分の事で、而《しか》も、歴史に見えるより新しい時代にも、尚《なほ》村々・国々の主権者と認められた巫女が多かつた。
[#ここから1字下げ]
神功皇后は、其である。上古に女帝の多いのも、此理由が力を持つて居るのであらう。男性の主権者と考へられて来た人々の中に、実は巫女の生活をした女性もあつたのではなからうか。此点に就ての、詳論は憚りが多い。神功皇后と一つに考へられ易い魏書の卑弥呼《ヒミコ》の如きも、其巫女としての呪術能力が此女性を北九州の一国主としての位置を保たして居たのであつた。
[#ここで字下げ終わり]
村々の高級巫女たちは、独身を原則とした。其は神の嫁として、進められたものであつたからだ。神祭りの際、群衆の男女が、恍惚の状態になつて、雑婚に陥る根本の考へは、一人々々の男を通じて、神が出現してゐるのである。
[#ここから1字下げ]
奈良朝の都人の間に、踏歌化して行はれた歌垣は、実は別物であるが、其遺風の後世まで伝つたと見える歌垣・※[#「女+櫂のつくり」、第3水準1−15−93]歌会《カヾヒ》(東国)の外に、住吉《スミノエ》の「小集会《ヲヅメ》」と言うたのも此だとするのが定論である。
[#ここで字下げ終わり]
だから、現神《アキツカミ》なる神主が、神の嫁なる下級の巫女を率寝《ヰヌ》る事が普通にあつたらしい。平安朝に入つても、地方の旧い社には、其風があつた。
出雲・宗像の国造――古く禁ぜられた国造の名を、尚《なほ》称しては居た
次へ
全34ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
折口 信夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング