が、早く芸能化して、鹿・蟹の述懐歌らしい物に変化して行つたのである。即《すなはち》鹿・蟹に対する呪言及び其副演の間に、当の田畑を荒す精霊(鹿・蟹を代表に)に扮した者の誓ふ身ぶりや、覆奏詞《カヘリマヲシ》があつたに違ひない。其部分が発達して、滑稽な詠、をこ[#「をこ」に傍点]な身ぶりに人を絶倒させる様な演芸が成立して居たものと思ふ。二首ながら、夫々《それぞれ》の生き物のからだ[#「からだ」に傍線]の癖を述べたり、愁訴する様を謳うたりして居る。又道行きぶりの所作――王朝末から明らかに見えて、江戸まで続いた劇的舞踊の一要素たる海道下り・景事《ケイゴト》の類の古い型――にかゝりさうな箇所もある。
古代の舞踊に多かつた禽獣の物まねや、人間の醜態を誇張した身ぶり狂言は、大凡《おほよそ》精霊の呪言神に反抗して、屈服に到るまでの動作である。もどき[#「もどき」に傍線]の劇的舞踊なのである。後世ひよ/\舞[#「ひよ/\舞」に傍線]と言はれる鳥名子《トナゴ》舞・侏儒《ヒキウド》の物まね(殊舞と書くのは誤り)なるたつゝまひ[#「たつゝまひ」に傍線]、水に溺れる様を演じる隼人のわざをぎ[#「わざをぎ」に傍線]
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