》は年に稀なるが故に、まれびと[#「まれびと」に傍線]と称へて、饗応《アルジ》を尽して、快く海のあなたへ還らせようとする。邑落生活の為に土地や生産、建て物や家長の生命を、祝福する詞を陳べるのが、常例であつた。
尤、此は邑落の神人の仮装して出て来る初春の神事である。常世のまれびと[#「まれびと」に傍線]たちの威力が、土地・庶物の精霊を圧服した次第を語る、其|昔《カミ》の神授の儘と信じられてゐる詞章を唱へ、精霊の記憶を喚び起す為に、常世神と其に対抗する精霊とに扮した神人が出て、呪言の通りを副演する。結局精霊は屈従して、邑落生活を脅かさない事を誓ふ。
呪言と劇的舞踊は段々発達して行つた。常世の神の呪言に対して、精霊が返奏《カヘリマヲ》しの誓詞を述べる様な整うた姿になつて来る。精霊は自身の生命の根源なる土地・山川の威霊を献じて、叛かぬことを誓約《ウケヒ》する。精霊の内の守護霊を常世神の形で受けとつた邑落或は其主長は、精霊の服従と同時に其持つ限りの力と寿と富とを、享ける事になるのである。かうした常世のまれびと[#「まれびと」に傍線]と精霊(代表者として多くは山の神[#「山の神」に傍線])との主従
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