#「おとづれ」に傍線]は、更に遲れて出來たものであらう。まれびと[#「まれびと」に傍線]によつて、ほかひ[#「ほかひ」に傍線]せられたいと思ふ心の起るべき時に、おとづれ[#「おとづれ」に傍線]する事になる訣だ。建築は今日から見れば、臨時の事らしく見えるが、前に言うた通りで、新造の時は定まつてゐたのである。私の考へる所では、婚禮の時・酒を釀す時・病氣の時の三つが擧げられると思ふ。尚一つ、不意の來臨を加へて考へることが出來よう。
婚禮にまれびと[#「まれびと」に傍線]の來ることは、由來不明の祓へ、竝びに其から出た「水かけ祝ひ」で察せられたであらう。我々の國の文獻は既に、蕃風を先進國に知られるを恥ぢることを知つた時代に出來たのである。だから、殊に婚禮も性欲に關した傳承は見ることが出來ない。唯我が國にも初夜權の行はれたことは事實であるらしい。讃岐三豐郡の海上にある伊吹島では、近年まで其事實があつた。又、三河南北設樂の山中では、結婚の初夜は、夫婦まぐ[#「まぐ」に傍線]ことを禁ぜられて居る。花嫁はともおかた[#「ともおかた」に傍線]と稱する同伴のかいぞへ女と寢ね、「お初穗はえびす[#「えびす」に
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