傍線]樣にあげる」のだと言ふ。沖繩本島では、花婿は式後直に家を去つて、其夜は歸らない。都會では、式に列した友人と共に遊廓に遊ぶと言ふが、此には意味がない。花嫁を率寢《ヰネ》ないことは訣があるのである。
定例のまれびと[#「まれびと」に傍線]の場合を見ると、家の巫女として殘つてゐる主婦・處女はまれびと[#「まれびと」に傍線]の枕席に侍るのである。これが一夜づま[#「一夜づま」に傍線]といふ語の、正當な用語例である。沖繩で花婿が花嫁を率寢《ヰネ》ぬ第一夜の風習は、私は第二次の成女式だと考へてゐる。裳着と袴着とが、女と男と對立的に行はれるのは、實は成年式の準備儀禮であつた。男は成年の後、眞の成年式によつて、神人たる資格と共に、其重要な要素であつたところの性欲行使の解放を意味する標識を、村固有の形でもつて、からだの上にせられる。其が忘れられた後まで、若い衆入りには、性意識の訓練と、自在な發表とを與へられもし、行ひもした。
女の方でも、裳着以後も、眞の成女と認められるまでは、私にも公にも結婚は出來なかつた。女の側の破戒は、多くは男の力に由るのであるから、成女以前の女――後には月事のはじまり、又は
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