の屋敷を踏み鎭める行儀である。陰陽師配下の千秋《センズ》萬歳は固より、其流なる萬歳舞も反閇《ヘンバイ》から胚胎せられてゐるのである。千秋萬歳と通じた點のある幸若舞の太夫も反閇《ヘンバイ》を行ふ。三番叟にも「舞ふ」と言ふよりは、寧「ふむ」と言うて居るのは、其原意を明らかに見せて居るのである。
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新室を蹈靜子が手玉鳴らすも。玉の如照りたる君を、内にとまをせ(萬葉集卷十一旋頭歌)
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最初の五字の訓はまだ決定して居ないが、踏んで鎭むる子の意に違ひなからう。さすれば、ふむしづめ子[#「ふむしづめ子」に傍線]・ふみしづめ子[#「ふみしづめ子」に傍線]など言ふよりは、ふみしづむ[#「ふみしづむ」に傍線](しづむるの意。古い連體形)子[#「子」に傍線]と訓じてよからう。手玉を纒いた人が、新室の内の精靈を踏み鎭めて居る樣である。
新室《ニヒムロ》のほかひ[#「ほかひ」に傍線]について言うて置かねばならぬ事は、其が臨時のものか、定例として定期に行うたものかと言ふ事である。新室と言へば、新しく建築成つた時を言ふと思はれるが、事實はさう簡單な事ではなかつた。
宮中
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